2024年度卒業式 謝辞
多文化・国際協力学科 卒業生代表 宮澤 恵実 さん

本日は、私たち卒業生のためにこのような素晴らしい式典を執り行っていただき本当にありがとうございます。先生方、職員の皆様、そしてご来賓の皆様に、ご多用の中ご臨席賜りましたことを厚く御礼申し上げます。
私が津田塾大学に入学したのは今から5年前の2020年のことです。入学以前は音楽家を志していたのですが、その夢に破れ、数年の社会人経験を経て、この学舎の戸を叩きました。結果として人生最良の選択をしたと確信することになりますが、当時は悩みの尽きない日々をなんとかしたいという思いがありながら不安もたくさん抱えていました。コロナ禍真っ只中で始まった学生生活は、1年次と2年次の両方をオンラインで授業を受けることになります。一緒に学ぶ仲間と会えない状況をさみしく感じつつ、一方で、同じ困難や孤独を共有したことで、この時期により一層仲間たちとのきずなが深まったように思います。オンライン授業自体は、先生方や職員のみなさまが環境を整えてくださったことで、対面授業と比べても不自由なく受けることができました。オンライン授業によって、勉強に集中できる環境にあったこの2年間は、入学以前の無念をはらすかのように、外出をせずに自宅でひたすら勉学に打ち込み、そのうちに段々と学ぶことのできる喜びを感じるようになっていきました。年齢を多少重ねたからこそ、分からなかったことや知らなかったことに触れて、自分の知識を深めていく過程を楽しめるようになっていったのだと思います。
学ぶ意欲が高まった理由はほかにもありました。日常的に悩んだり考えたりしたことをレポートなりプレゼンテーションなりでまとめると褒められることが増えていったのです。悩み多い日々を送ってきた自分にとって、悩むこと、つまりひとつのことをずっと考え抜くという作業は当たり前のことではありましたが、同時に、考えすぎて前に進めないという意味では、自分の大きな欠点でもあると思っていました。ところが、津田塾大学ではそれをとがめられるどころか、いいじゃないか、面白い、もっとやれ、と言われるのです。欠点が武器にもなり得るのだと気付いた事は私にとって人生の転換点でした。失われていた自信が回復していきました。そして、何よりも、自分にできることがあるという実感が持てて嬉しかったのです。同時に、頑張れば頑張った分だけ、きちんと認めて、さらに先へ行きなさいと励ましてもらえる環境に深く深く感謝しました。私が長く身をおいていた音楽の世界では、それは決して当たり前のことではありませんでした。津田塾大学での学びを通じて、日常的に感じている疑問や悩みが学問につながることに気が付き、そしてそれを突き詰めて思考を深めていくたびに、先生方や仲間たちに面白いといって励ましてもらえることに、深い感謝と何物にも代えがたい喜び、そしてやりがいを感じるようになりました。
次第に自信をつけていった私は、3年次にフィリピン大学への協定校留学に挑戦しました。無事に校内選考を通過した当初は、年齢などの懸案事項があっても、私を派遣留学生として選出していただいた恩に報いたい一心で留学に向けてかなり意気込んでおりました。しかし、コロナパンデミックの余波で、留学は一年延期となってしまいます。しばらくの間落ち込んだものの、この時期に卒業論文のテーマの絞り込みに努め、国際移動とジェンダーというトピックに辿り着きました。この新たな卒業論文のテーマを携えて、なんとか気持ちを立て直した私は、4年次後半から5年目にかけてフィリピン留学に臨みました。今振り返ってみれば、実りの多い留学生活だったと思えるのですが、フィリピンに滞在中は、言語の壁や文化の違いに思い悩み、環境の変化に圧倒されて、元々持病を抱えていた私は一時体調不良で入院する事態にまで追い込まれました。そんな中で、ゼミの松山章子先生をはじめとするいろいろな先生方や職員の方々から励まされ、サポートしていただき、なんとか留学生活を続けることができました。
また、留学期間の後半、予定していたフィールドワークをこのような体調不良のために半ば諦めかけたものの、いろいろな縁やタイミングに助けられて、なんとか実現させることができました。このような状況で臨んだ現地での調査は、当初の計画通りに順調に進んでいったわけではなく、紙の上では想像もつかなかったリアリティにも直面しました。しかし、一介の学部生でしかない私を温かく受け入れて貴重な時間を割き応じてくださった調査地域の皆さんのやさしさに触れ、深い感謝と温かい気持ち、そして手ごたえも得ることができました。
帰国後は、このフィールドワークを基に、学びの集大成として卒業論文の執筆に取り組みました。途中で力不足を幾度となく感じることもありましたが、やはりこの時も周囲の人々に支えられて、なんとか論文を形にして、今日のこの日を迎えることができました。
このように、大学生活を振り返ると、困難な時も、常に周りのサポートがあって乗り切ることができたのだと感じています。可能性を信じてもらえること、励まし支えてもらえること、あきらめずに活躍の場を与えてもらえること。これらは決して当たり前のことではありません。悶々と悩みながらたどり着いた津田塾大学という場所で、さまざまな人との出会いに恵まれて、自分の力を信じて前に進めることに感謝の思いでいっぱいです。
フィリピン留学中に知り合った友人に、私がストレートで大学に進学していないことから、世間からひどく遅れているように感じてしまうことがあると打ち明けた時のことです。彼女は、人生には人それぞれのペースがあり、様々な物事は必ずその人のベストなタイミングで起こるようになっているのだと言いました。続けて、だから、私が今津田塾大学で学び、フィリピンへ留学していることも、それが私にとって最適な時期なのだと。私は今、その言葉をかみしめています。私がこのように今日まで津田塾大学で学んだ5年間は人生で最高の、最良の時間でした。それぞれがありのままに学生生活をおくれる、そういう空気のある津田塾大学で学べたことはわたしにとってしかるべき選択だったのです。一般的にみれば、私の大学生活は、他の人よりも遅く始まったかもしれません。けれども、それは私にとってベストな時期だったと今感謝をもって思えるための、必要なまわり道だったと思っています。たくさんまわり道をして、ああでもないこうでもないと悩んだり立ち止まったり、いわゆる「普通」には進まない人生を歩んでいく私を、時に厳しくそして温かく応援し続けてくれている家族にも、深く感謝しています。
今日、私たち卒業生一同は万感の思いを持って津田塾大学を卒業します。多くの人が感じるのは、やはり、これまで支えてくれた周りのひとたちへの感謝の気持ちだと思います。卒業生代表として、この場を借りて、これまで私たちに関わり支援してくださったすべての皆様に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。私たちは、これからも、それぞれのペースで自分たちの人生を歩んで行きます。変わらぬ眼差しで見守っていただければ大変嬉しく思います。
最後に、先生方、職員の皆さま、ご来賓の皆さま、そして、私たち卒業生にかかわってくださったすべての人に重ねて深い感謝を申し上げ、皆さまのご健康とご多幸をお祈りいたしまして、お礼の言葉とさせていただきます。
2025年3月19日 多文化国際協力学科代表 宮澤恵実