多文化・国際協力学科学科発信メディア

卒業生謝辞

2025年度卒業式 謝辞

2026.03.18

多文化・国際協力学科 卒業生代表 曽禰 愛七 さん

 本日は、私たち卒業生のためにこのような素晴らしい式典を執り行っていただき、誠にありがとうございます。先生方、職員の皆様、そしてご来賓の皆様に、ご多用の中ご臨席賜りましたことを厚く御礼申し上げます。

 私が津田塾大学に入学した2022年は私たちの大学進学を歓迎するような年であったように思います。新型コロナウイルスの流行は収束に向かい始め、私たちは対面で授業を受け、時間を共にできました。海外への渡航規制も和らぎ、外へと挑戦できる環境もありました。高校時代、新型コロナウイルスの影響により、対面で授業を受け、友人とコミュニケーションを取ることができないもどかしさを経験していたからこそ、大学では対面で集える環境への感謝をより一層強く感じました。入学式当日、新しい環境に身を置くことへの不安とそして期待を胸に、この津田塾大学に足を踏み入れたことを思い出します。

 この4年間は、新しい思考に触れ、学ぶ難しさ、そして面白さを経験したとても価値のある期間でした。入学してしばらくの間は、その難しさを実感する場面の方が多かったように思います。まず、入学してすぐ高校までの学びとの大きな違いに直面しました。高校までは、既に問いが与えられており、その問いに対して一つの回答を導く。このような学びが中心であったと思います。一方で大学では、自ら問いを立て、絶対的な答えがない問いについて思考します。高校までの学びが当たり前になっていた私にとって、それはとても難しいことに感じられ、この学科で卒業のために必要なフィールドワークを、「やり遂げることができるのだろうか」と不安に感じたことを覚えています。
 当時、私は学んでいくうちに、この難しさにも自然と慣れ、不安も和らぐのだろうと思っていました。ところが実際は、考えても、考えても、最善と思える答えが見つけられないことも多く、その難しさに常に直面し続けていました。しかし、この難しさこそが面白さの源泉であったと思います。
 2年次に「批判的に論じなさい」というレポート課題に取り組んだ時のことです。批判的思考について、自分なりに調べ、理解したつもりで取り組んだものの、結果そのレポートで望ましい評価を得ることができませんでした。意味を覚えても、それだけでは簡単には実践できないことに、さらなる難しさともどかしさを感じました。しかし、この経験が批判的思考とは何かを、学び直すきっかけをくれました。
 実践しなければ身につかないことを知った私は、視点を変えて疑ってみること、自分なりに理解したこの批判的思考の実践を、日々の授業で意識するようになりました。すると、視野の広がりを実感できました。例えば貧困や、若者の薬物依存について、視点を変え疑ってみることで、一見個人の責任として捉えられる問題が、社会全体の問題として浮かび上がってくることを学びました。 それによって、他者の問題として捉えていたことに対し、社会の一員として当事者性を持って向き合えるようになることにも気づくことができました。視点を変えると、物事の見え方がガラッと変わること。情報量は同じでも、思考の可能性が広がることに、学ぶことの面白さを感じました。当事者性を持って、物事に向き合う視点。これは、一人として全く同じ人物がいない社会の中で、私たちの学科の名前にも入っている「協力」と、そして「共生」を実践していくための助けにもなるであろう、大切な学びになりました。
 
 こうした学びを経て、4年次に行ったフィールドワーク。ここでも改めて学んだことがあります。私は「韓国人に対し、好感を抱くまでの心理的プロセス」をテーマに4人にインタビューを行いました。そのうち3人は知人であったため、自分では彼女たちのことを「知っている」つもりでいました。しかし、インタビューを進め、相手の思考に深く触れると、今まで自分には見えていなかった、一人ひとりの経験、そこから生じた心理的葛藤や価値観が見えてくるようになりました。自分の思い込みを捨てることが他者を理解する際に重要であることは、授業を通して学んでいたことではありましたが、フィールドワークはその意味を、身をもって知ることができた貴重な経験になりました。
 このような学びが可能になったのは、津田塾大学が、知識などの情報そのものはもちろんのこと、それ以上にその捉え方を学ぶ機会を私たちに与えてくれたからであるように思います。これらは、すべて自分一人だけでは得られなかったものです。学びの難しさ、その先にある面白さに気づくことができた瞬間は、他者の思考に触れた時でした。
 ゼミで、一人では思いつかない新しい視点に触れた経験も、私に学びの楽しさを教えてくれました。ジェンダー、教育や自己形成、福祉や支援など多様な分野に関心があり、研究のフィールドも異なる学生が集まっていたゼミの中で、それぞれが異なる研究テーマに関して発表し、意見を交わします。普段、異なるテーマを探求しているからこそ生じる新鮮な意見のおかげで、自分の考えの偏りに気づけたこと、ゼミの先生のコメントから、フィールドも時代も異なり一見無関係に思えるような事例であっても、抽象化すると自分の研究テーマとの共通点が見えてくることもありました。自分にはない新鮮な思考に触れる機会に恵まれたこと、それは当たり前のことではありません。私たちが自分の関心に向き合い、可能性を探るサポートをしてくださった先生方、職員の皆様、共に授業を受けた皆さんがいたからこそ、この4年間を有意義な時間にすることができました。

 今日、私たちはこの津田塾大学、多文化・国際協力学科を卒業します。異なる背景を持った私たちの道は入学式で交差し、大学生活を通して交わり続けながら、一人ひとりが多様な「津田塾大学での生活」を送ってきました。そして今、この卒業式を境にまたそれぞれが別の、新しい道に進んでいきます。私はエンジニアとしてIT企業に勤めることを選択しました。今まで、専門的に学んだことがない未知の分野です。不安に思うこともあります。しかし、自分にはない新しい思考に触れることで可能性が広がること、津田塾大学、多文化・国際協力学科で得たこの経験が私を後押ししてくれます。私たちがこの学科での生活を通して得た経験。それらは一人ひとり異なるもので、一つとして同じものはないでしょう。それらが異なるものであったとしても、きっとその多様な経験が今後、それぞれの道を照らすものになるのではないかと思います。

 改めまして、津田塾大学という環境と、その環境を整え、ご指導ご鞭撻を賜りました教職員の皆様、共に授業を受けた多文化・国際協力学科のみなさん、楽しい思い出や時には不安な感情も共有し、成長のための刺激をくれた友人、そして大学卒業まで支えてくれた家族に心から感謝いたします。 最後になりましたが、津田塾大学の一層の発展と今日まで暖かく見守って、支えてくださった皆様のご健勝をお祈りし、謝辞の言葉とさせていただきます。

2026年3月18日 多文化・国際協力学科代表 曽禰愛七

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