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高校生フィールドワーク・コンテスト

2024年度 審査結果 高校生フィールドワーク・コンテスト

2024.09.25

2024年8月31日に高校生フィールドワーク・コンテスト2024を開催いたしました。

審査結果

最優秀賞

栃木県立矢板東高等学校3年 河野邉 晶さん
「矢板宿」の変遷にみる地域商業の在り方 —「屋号」に着目して—

講評

本研究発表は、報告者が生活している栃木県矢板市の地域社会をめぐる歴史及び空間的変容を、かつて矢板宿として繁栄していた場所を調べることによって明らかにすることを試みたものである。それぞれの変容の過程を郷土史や地理学的なアプローチから比較・検証することにより、近世に宿場町が形成されてきた歴史的経緯を踏まえつつ、近年は大型商業施設の出店なども影響して商業地から住宅地へと移り変わっていることが示された。また、そのような状況のなかでも屋号に着目することにより、今もなお継続して商いを営んでいる人々への調査を実施している。店主たちへの聞き取り調査からは、時代の移り変わりに伴った人びとの移動や業種の変容が明らかとなり、地域の流動性が浮き彫りとなった。本コンテストの審査員たちが最優秀賞に値すると判断したのも、まさにこの地域を固定的で不変のものとして本質的に捉えるのではなく、常に移り変わるものという動態的な視座によって本研究が貫かれていた点にある。とりわけ、地域社会学的な観点から、グローバリゼーションにともなった規制緩和によって大店法が廃止されたことにより、大型小売店が出店して地域の小規模な小売店が淘汰されているという歴史・社会的状況を踏まえた考察が高く評価された。このことは地域社会を描くときに陥りがちな、かつての地域社会やその繁栄を回顧するようなノスタルジックで幻想的なイメージの構築を回避して、どのように移り変わってきたのかというリアリティを明らかにしてくれる。このような視点は、地域社会やそこで生活している人びとにとって必ずしも明るいと感じられるものでないかもしれない。しかしながら、自分たちが住んでいるまちの現在を的確に把握して未来を構想していくために知っておくべき現状だ。そしてまた、今後の研究課題として、同じ地域社会で生活している他者(移民など)の存在や、他の国や地域で生じている同時代的な現象と結びつけていくような視座を備えることによって、さらなる発展を期待できるだろう。

評者:川端浩平(多文化・国際協力学科教員)

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