フィールドワークが拓く未来 ー 卒業生の挑戦
市毛優花さん(2022年度卒業)在ホノルル日系観光企業勤務(2025年3月現在)
卒業生インタビューをもとにゼミの担当教員が執筆したエッセイを掲載します
卒業論文テーマ…文化の実践者は如何に文化を認識しているか—ハワイにおけるフラの実践者クムフラの語りと実践の場ハーラウに着目した分析より—
市毛さんは幼い頃からハワイアン・フラを習い、大学時代も他大のフラサークルで主将をつとめた。彼女の引退公演はオンラインで配信されていて、とてもパワフルで美しかった。そんな市毛さんの大学での研究は、ハワイの先住民文化への憧れに起因するものだった。最初は、先住民の「聖地」に最先端科学が集結した大型望遠鏡が設置されるという計画に関心をもち、その「問題」を扱いたいと話していた。でもいつからか、原点回帰のように、フラへと研究関心が移っていった。
他方、彼女の大学時代は新型コロナウィルスに翻弄され、2年の春からはほとんどがオンライン授業になった。もちろんハワイへの渡航も叶わない。周りの友人たちが国内でフィールドワークを始めるなか、ただただ焦っているように見えた。一度、国内でフィールドワークをしてみようと奄美大島に行ったが、それが逆にハワイへのこだわりにさらなる火をつけることになった。
彼女はいつもものすごく迷い悩み、器用に決断することが苦手な人だった。だからこそ、「私は何をやりたいのか」、真剣に向き合っているようで、わたしにとって彼女の悩むようすは好印象だった。
4年生になり、やっとハワイ島にフィールドワークに行くことが叶った。市毛さんは、たまたま出会った人から、フラを実践するハワイ島の先住民女性を紹介してもらい、その人のフラ教室(ハーラウ)に通いながら、フィールドワークをおこなった。ハワイの先住民にとってフラとは、伝統とは何なのか、それを継承するとはどういうことなのか、英語で聞き取りを重ねてきた。当時を振り返って、「フィールドワークのときは、考えることが多かった、自分の好きなことを考える、その人の発言がこうなんじゃ、ああなんじゃ・・・と、とにかくずっと考えていた」、「フィールドワークの正解がよくわからなくて、自分のやっていることがちゃんとつながるのかという不安がいっぱいあった」、「人の論文を読むと、すごいできあがっているから、どうしよう、どうしよう、と焦った」と、やはり現地でもずっと悩んでいたことを語ってくれた。実際に、フィールドワーク中に一度、市毛さんはハワイから日本にいるわたしに電話をかけてきて、自信がない、何をしたらいいのかわからない、と電話口で泣いていたことがあった。現地で出会った日本人研究者から、先住民と関係を築くことの難しさを解かれ困惑したこと、交通の便が悪くてなかなか思うように動けないことなど、困り果てているようだった。当時、わたしがその悩みにどう答えたのかよく覚えていないけれど、動けないなりにも、動ける範囲で動き続けたら何かにつながること、少数でいいから互いに信頼しあえる人をつくること、そんなしごく当たり前のことを伝えながら、悩みを聞いた時間だったような気がする。
帰国後、卒業論文にまとめる段階でも、市毛さんは変わらず、ずっと悩んでいた。集めてきたデータを、どうまとめていけばいいのかわからない。なんとかまとめようとKJ法に挑戦しても、とっちらかってしまって整理ができない。市毛さんはよく学ぶ真面目な人で、たくさんの先行研究も読んでいた。しかし、考えていることをどう文章化すればいいのかが見えなくて、少し話すと泣き出しそうな状態もしばしばだった。それでも彼女は先行研究を読み続け、自分のデータと対峙し続けた結果、提出の2週間くらい前に、「『あ、こういうことなのかも』って突破口が見えた」という。事実、それまでとは見違えるような、文化の実践と継承に関する丁寧で堅実な草稿を出してきて、思わず「すごくよく書けている!」と彼女に声をかけた場面を今でも鮮明に覚えている。すばらしい成長だった。
市毛さんは卒業後、ハワイに戻った。ハワイ大学のカピオラニ・コミュニティ・カレッジに進学し、1年間Hospitality & Tourismを学び、今はホノルルにある日系の観光企業で働いている。同時に、ハワイで念願のハーラウに所属し、ハワイの人たちと一緒にフラの実践者となった。2024年には、ハワイ島で開催される世界でもっとも大きなフラのイベント(Merrie Monarch Festival)にハーラウの人たちと一緒に出て踊るという、小さな頃からの夢を叶えた。彼女は今、ハーラウに所属することで、ハワイの先住民文化をたくさん学んでいるという。「フィールドワークのときは外から見るしかできなかったけれど、今はみんなと同じことをして、四六時中一緒にいる」、「またもう1本論文が書けそう」と語っていた。そうして踊りながら、たまに卒論を見返すそうだ。また、最初に研究テーマにしようとしていた大型望遠鏡の「問題」について、市毛さんがカレッジで書いた論攷が、校内雑誌に掲載されたことも話してくれた。ずっと持ち続けてきたハワイに対する彼女の関心は、卒論で完結することなく、今もひとつずつ小さな形になって、悩みがちな市毛さんの自信へとつながっていることと思う。
文責:八塚春名