高校生フィールドワーク・コンテスト
第3回高校生フィールドワーク・コンテスト 開催報告
6月6日(土)小平キャンパス(オンライン併用)にて、第3回高校生フィールドワーク・コンテストが開催されました。
全国多数の個人・グループからの応募があり、書類審査によって選ばれた11組がプレゼンテーションを行いました。コンテスト当日は沖縄などの遠方からの参加者のほか、高校教員、保護者及び書類審査に通過しなかった応募者にも参観いただきました。
多文化・国際協力学科教員による審査の結果、3名に賞を授与しました。講評は下記の通りです。
最優秀賞
■金 世潤(東京朝鮮中高級学校)
見えないマイノリティとアイデンティティ形成ー在日コリアン4世としてのフィールドワークからー
講評
金世潤さんの研究対象は、自分自身を含めた在日コリアンの第4世代である。社会科学においては、「私」(個人)も研究対象である社会の一部を構成しているわけだから、自分自身を考察することは社会を理解することに資する。金さんの選択した研究調査方法は、自分自身を考察の軸とするオートエスノグラフィである。移民研究や多文化社会化に関連した専門家へのインタビューを実施するとともに、自分自身や日々の経験を省察し、在日コリアンの若い世代が経験する差別とアイデンティティの形成のあり方を明らかにすることが試みられている。移民4世代目である在日コリアンの若者たちは、「差別は感じない」と述べるいっぽうで、「通名を使用する」という現実があるという。金さんは、このような身近な世界のリアリティを出発点として、現代社会の差別の構造を明らかにしている。たとえば、自分の母親を「オンマ」と呼びかけようとするその瞬間に、周囲の目が気になり「お母さん」という日本語に切り替えるようなエピソードは、まさにその差別の構造が顕になる瞬間でもある。そしてそのような本名と通名の切り替えを駆使しなければならない社会は息苦しい。すなわち、マイノリティは主流社会の眼差しや空気感を察知するがゆえに、そこに「見えない観客」を見出してしまう。もういっぽうで、このような「見えない」差別の構造を可視化することは、マイノリティ自身を可視化することにもつながる。しかしそれは個人の力で克服できるものではない。金さんの場合は、海外で英語による交流を通じて、自分自身とその他の在日コリアンをとりまく問題を言語化した経験がきっかけとなった。安心して自己開示が可能であるサード・スペースという環境の重要性に気づいたという。かつて在日コリアンの若い世代は自らが不可視化される状況に対抗して、アイデンティティの政治やカミングアウトによって可視化することを試みた。それは多大なエネルギーと勇気をともなう行為であるとともに個人の力量に左右されるものでもある。しかしそれでも差別のある社会的構造は現在も温存されたままだ。ゆえに、先行世代の差別との闘いやアイデンティティの政治を継承しつつも、個人の力量や資質で差別を乗り越えるのではなく、金さんが主張するように誰もが自分を語ることのできる環境を創出することが必要となるのだ。今後は、在日コリアンとは異なるルーツの人びとや、ジェンダーや階層といった異なる属性により生じる差別との交差性を問う視座とも結びつけることによって、差別に対する批判的理解を深めていく研究へと展開していくことが大きく期待できる。
評者:川端浩平
優秀賞
■升元 ルナ(東京学芸大学附属国際中等教育学校)
広島県竹原市における住宅の立地と災害リスク—地理的要因と社会的要因からの分析—
講評
本報告は、広島県竹原町への帰省時の「気づき」に出発し、「なぜ災害リスクの高い山麓に住宅が立地しているのか」という問いを、地理的条件や土地利用の歴史的変遷、地域住民の生活などに着目したフィールドワークを重ねることで見事に解明したものである。本報告のもっとも秀逸な点は、一つの問いに複数の観点と調査手法でアプローチし、それによって得られた多様なデータや資料を巧妙に組み合わせることで問いに答えるという、用意周到なフィールドワークのプロセスそのものにある。
具体的には、地形図や行政のハザードマップ、気候に関わるデータなど丹念に分析することによって、この地域で土砂災害が人々の居住空間を脅かした地理的、気候的要因を明らかにしたこと。そのうえで、現地での調査と過去の地図、人口変化の資料を組み合わせることによって、過去の土地利用と現在の被災の結びつきを解明したこと。またナラティブ・インタビューによって、数値データだけでは見えてこない現地に暮らす人々の生活のリアリティを掬いあげたこと。そして、これらの3つを組み合わせることによって、過去の水田開発における合理的な選択が現代の土砂災害リスクへと反転してしまう地域のジレンマを、説得力をもって堅実に描き切った点は高く評価できる。
土砂災害の発生と人口減少に伴う山林の荒廃との関係など、さらに検証が必要な点はあるものの、都会に生活拠点を置く高校生が見過ごしがちな「地方の抱える脆弱性」という現代日本の深刻な課題に、正面から取り組んだことに称賛を送りたい。また、人口密度の低い地域に復旧の遅れが集中しているという格差の存在をフィールドで見出し研究課題として持ち帰ったという点でも、現場で次なる問いをつかむというフィールドワークの真髄を体現したものといえる。フィールドワーカーとして升本さんの、更なる発展を期待したい。
評者:丸山淳子
優秀賞
■渡邉 琉央(関東国際高等学校)
フィールドワークで進化するAIアプリーAIによって認知症およびMCI患者と支援者とのコミュニケーションの支援はできるだろうか?
講評
ケアとAI。これら二つを組み合わせる独創的な試みが本発表の主題だった。報告者は、認知症や軽度認知障害(MCI)を患う人びと、その人びとのケアが日常や業務である人びとに対する支援となる、AIを活用したアプリの制作プロセスについて発表した。
その試みは、報告者の親族であるMCI当事者とその配偶者の日常生活に陰りが見られることからはじまった。認知症の進行を和らげるために有効とされる「環境調整」を日常生活に落とし込むため、当事者にさりげなく提供できる小さな課題をAIが提案するアプリを試作する。アプリを実用すると、ケアを担う親族の気持ちにゆとりが生まれていった。ここから報告者は、支援アプリを改善するため、フィールドワーク的活動の幅を広げていった。親族家庭に留まらず、デイケアセンターでボランティアに参加し、さらにはケニアのNGOにアプリの試用を依頼した。デイケアの現場で専門家から受けた助言やNGOからのフィードバックを反映させ、アプリは改善されている。
この過程において、フィールドワーク的アプローチの強みがもっとも顕著に表れていたのが、アプリの開発過程における有効性の評価の仕方である。報告者が最初に試作したアプリの有効性を評価する上で重視したのは、ケアを担う親族の心が安らぐことである。改善を加えたアプリの問題点は、アプリからタスクを課されたMCI当事者が抱く怒りが伝えていた。さらなる改善を経たアプリの有効性を確信できたのは、ケアを担う親族とのコミュニケーションからMCI当事者に笑顔が増えたからである。
二人の日常そのものがアプリの重要な評価指標になると考えたのも、MCI当事者とケアの担い手の現実に丁寧に向き合っていたからだろう。現実を高い解像度で多面的に感受できそれに応じた調整や改善が重ねられていく、フィールドワーク的アプローチの強みが、一連の試行錯誤にはっきりと現れている。
報告者がその強みを生かし、探求の過程において現実こそを受け止める姿勢でアプリ制作に取り組んでいることは、問題点が浮上したとき一度その使用をやめるという潔い判断を下したことにも確認できる。
報告者はデイケアセンターでもアプリ使用が広がるかどうかの模索の最中だという。複雑な現実に向き合いながら工夫が重ねられていくことを期待したい。
評者:近藤宏







































































































































































